評伝 山中貞雄などなど


あまり浮かれているとラピュタさんに叱られちゃうので、ハイ今回はちょっとお勉強です。
トークでもしばしば言及される山中貞雄に関連する書籍をご案内。


まず最も入手しやすいものとして、昨年10月に新装版にて復刊した『映画監督 山中貞雄』(キネマ旬報社/2800円+税/オリジナルは85年発行)。
著者は山中の甥に当たる加藤泰監督で、直に接していた肉親ゆえに思い入れの込められた文章で綴られています。
ラピュタさんでも販売していますので、ちょっと手にとってみて下さい。


次にお求めやすいものとして『評伝山中貞雄―若き映画監督の肖像 』(千葉伸夫著/平凡社ライブラリー) 。
こちらは描写が客観的な分、背景や時代状況がわかりやすく感じました。
絶版状態のようですがアマゾンなどでは定価1575円のところ、中古商品が800円くらいで買えます、今がチャンス?

評伝山中貞雄―若き映画監督の肖像 (平凡社ライブラリー)

評伝山中貞雄―若き映画監督の肖像 (平凡社ライブラリー)

もともとこの『評伝山中貞雄』は『山中貞雄作品集』(実業之日本社)の別巻として出されたもの。
この『作品集』は監督作品15本(『小判しぐれ』、『小笠原壱岐守』、『天狗廻状・前篇』、『足軽出世譚』、『関の弥太ッぺ』、『怪盗白頭巾・前後篇』は収録なし)の脚本の他に、
脚本を担当した『なりひら小僧』(仁科熊彦監督)、『恋と十手と巾着切』(広瀬五郎監督)、『戦国群盗伝』(滝沢英輔監督)、
未映画化作品『中村仲蔵』、『武蔵旅日記』、『海内無双』の全部で21篇を収めています。
プリントが現存しない作品の世界を知ることができるし、またシナリオといっても実に簡易な造りのものも含まれているので、色々思いを膨らませながら読むと楽しいです。


またシナリオの他に座談・対談・エッセイも収録されていて、これが滅法面白い。
当時早大生の杉江敏男(『戦国群盗傳』57年版監督)が山中にインタビューしていたり、
衣笠貞之助稲垣浩と「トーキー座談会」をしていたり、「梶原金八・円卓会議」があったり、溝口健二と「とりとめなく語る」があったり(溝口に「山中君、そんな制限なんかに、びくびくしていたんでは、思い切った仕事は出来ないぜ。どんどん廻して、思っているだけのことをやったらどう。」と言われちゃってます)。
原節子(『河内山宗俊』)には照れて芝居をつけられなかったと揶揄されている。
山中は現存する作品以外も時代劇しか撮っていないのだが、現代劇に関心を示しつつも、「コワイ」と口にしている。


などなど色々と参考になる話が満載なのだが、アマゾン中古商品価格もだいたい9000円と高止まりしている上(定価は9975円)、厚さも約6センチにしてずっしり重く持ち運びに不向きと、簡単に手が出せるものではないのが難点。
対談・エッセーに関しては『評伝山中貞雄』に転載されているものも多いので、まずはそちらをお読みになる方が良いかも。


実業之日本社からは『監督 山中貞雄』も出ています。こちらは批評家や関係者の綴った文章を広く集めたもの。
やはり定価9975円にして千ページを超える重量級なのですが、山中本人が記したものではないためか、中古商品はだいたい半額まで下がっています。


この中で蓮實重彦氏が山中貞雄作品について20ページ近くにわたり批評しています。
蓮實氏は何度も山中について言及していますが、ここに所収された文章がもっとも詳細にしてスリリング(他の本には収録されていないはず)。図書館まで行って読む価値アリです。
読んでから観るか、観てから読むかはご自由に。


後は漫画で『山中貞雄物語 沙堂やん』(やまさき十三、幸野武著/小学館)というのがあります。私は掲載時に読んだ覚えがあるのですが、細かい点の記憶はありません。
こちら定価1890円にして中古商品だいたい1万円という高値をつけています。


値段的にやはりオススメは『評伝山中貞雄』ですね。
定価1575円が安すぎると却って不安になるかもしれませんが、
それは要するに文庫本だからで、450頁以上ある、充実の造りです。
以上どうぞご参考にされて下さい。