嗚呼 山中貞雄&その前夜

フィルムセンター大 11:00 約150名 オトコ8:オンナ2


さて「山中が従軍中も映画化に意欲をのぞかせていた」という『その前夜』(38年・萩原遼監督)。
主役は当然前進座のふたりだろうと思い込んでいたら、河原崎長十郎は他人の奥さんのケツばっか追い回して身近な存在に気づかないボンクラだし、中村翫右衛門はコガネ貯めて家を護ることに汲々している存在で、およそ山中作品の主人公たる資格がない。
西山洋市監督が『河内山宗俊』のウラ主人公と指摘した、市川扇升も出演しているが市川莚司(=加東大介)の指導があってもなお半人前とお話にならない。


さてさて山中作品の主役たるもの、大いに酒に酔っ払うくらいの器でないと務まらない。
この作品においてそうした存在は山田五十鈴をおいていないのだ。


実際、山田五十鈴は身体を張って河原崎長十郎の窮地を救い、中村翫右衛門とは言い争いで互角以上の戦いをしている。新撰組なぞ軽く手玉に取り、市川扇升高峰秀子東宝作品だから深水藤子は無理?)との恋を見守る存在。
現存するモノに対しての仮説は好きだがタラレバは嫌いな西山さんと私は違うので、ついつい。
山中貞雄がテレが薄れる年齢まで生きていれば、溝口健二石田民三に匹敵しつつ趣を異にするヒロイン映画を撮っていたのだろうと思ってしまう。