狂気の海

映画美学校 19:30 (1回目と併せ)約180名 オトコ6:オンナ4


昔々あるところに安倍首相という人がいました、で始まる実録・日本昔ばなし。というのは半分冗談だが、首相に田口トモロヲさん、首相夫人に中原翔子さん、CIAの調査官に長宗我部陽子さんを配し、憲法九条と核兵器を巡る脚本を書いた監督は高橋洋氏。


女優ふたりが素晴らしい。制作費はたぶん80万円くらいなのだが、なぜか二百万円相当の毛皮のコートを颯爽と着こなし、首相を操る中原翔子さんはお見事。劇中だけでなく上映後の打ち上げまで指揮を執っており、正に女帝に相応しい人ナンバーワンである。長宗我部陽子さんも見事に『迷い猫』な方で、打ち上げの移動中姿を消したりするのだが、劇中の両人差し指の動きには本当にシビレました。


制作費だけでなく撮影に要する期間など諸条件を遵守するよう最も厳しく言うのは、映画美学校の講師中、高橋洋氏が随一だとか。おそらく本人以外は絶対この予算や尺数(だいたい30分枠)に収まり切るはずがないと考えるであろう、予想を超える大風呂敷の広げっぷりに感服した。


上映後、ワシントンDCに落ちる核ロケットが見たかったと私も確かに感じた。しかしどうなのだろう。プラハを出ずに(出られずに)『アメリカ』を著したフランツ・カフカのごとく、あからさまな日本人に演じさせながらアメリカに到達するのを目論んでいる高橋洋氏にとって、それは予算の都合というより単に興味を惹かれなかっただけなのかも知れない。


先述した日本発核ロケットの名前を含め、ネーミングやら音響やら、かなり分かりづらい仕掛けが様々されている模様。私自身もう一度観たいし、見逃した方も大勢いると思うのでぜひ再上映を希望します。