丹下左膳餘話 百萬両の壺&河内山宗俊

みなさん、こんにちは。
「役に立つ山中貞雄」@ラピュタ阿佐ヶ谷があと一週間に迫りました。
そもそもこの企画上映、若い方にもっとスクリーンで映画を観て欲しいというところから始まっているので、今回は主に山中貞雄って名前聞いたことがあるけど観たことない、あるいは山中貞雄って誰? という方々に向けてお送りします。


山中貞雄は1909年生まれで、黒澤明(1910年生)やマキノ雅弘(1908年生)と同世代の人ながら、監督作品が3本しか現存せず、しかも戦前の作品なので観る機会はさほど多くありません。私の調査ではレンタル店に3作品揃って置いてあることは稀、しかもソフトはVHSであることが多かったです。
「29歳で夭折した天才監督」と紹介されるのが通例ですが、とっつきにくい芸術肌の「孤高の人」ではありません。笑いあり、涙あり、アクションも色恋もあり、そしていかにお金を工面するかを巡るエンタテインメント作品です。


どれも観たことがないという方には、まず『丹下左膳餘話 百萬両の壺』から御覧になることをオススメします。『放浪記』の林芙美子先生も当時観てお気に入りとなった一篇。

チラシでは丹下左膳(=大河内伝次郎)が睨みをきかせて何やら恐ろしげですが、常日頃はヘラヘラしていて、内縁の妻に頭が上がりません。丹下左膳をそんなキャラにしてしまったため、原作者(=林不忘)が怒ってクレジットを外され、「餘(余)話」とエクスキューズを入れたくらいです。

でも丹下左膳が本気になるとケタ違いの怪物ぶりを発揮する。レンタル店に置いてある「百万両の壺」は多くの場合、豊川悦司主演のリメイク版ですのでお間違えなきように。


基本的なスタンスに変わりはなく、2週目の『河内山宗俊』でもデビューしたての原節子に男ふたりがデレデレしてます。やはり金銭問題を解決するため身体を張るのですが、ヒーローたちの怪物性は薄れ、現実性が増しています。

歌舞伎界の伝統に異を唱えた前進座と組んでの作品です。中でも山中が神様と称賛した中村翫右衛門(なかむら・かんえもん)の演技にご注目。
この前進座にはマキノ雅弘監督『次郎長三国志』(東宝シリーズ)の豚松でお馴染み、加東大介(作品クレジットは市川莚司)もいて、チョイ悪お調子者で出演しています。

また作品中、日本映画史上最も美しいと称される雪が降ります、ぜひお見逃しなく!(ちょっと映写状態が心配なのですが…)


『人情紙風船』と『戦国群盗伝』についての紹介は長くなってしまうので回を改めることにします。
さて私たちは今回のキャッチコピーを「目を覚ませ!」と銘打ったのですが、実際に足を運んで戴いた方々には「耳をかっぽじれ!」の方が重要かも。正直な話、音声(台詞)は聴き取りづらいです。

上映素材にもよるのですが、そもそもトーキー初期の作品なので機材・技術的な問題が内在しています。
山中貞雄作品集』に収められた衣笠貞之助稲垣浩両監督との座談会などでは、サイレントから移行した役者のエロキューションの悪さを嘆いている。また若く見せるため頬にフクミ(綿)を入れている役者の場合は、傍にいる監督さえ何を言っているのか判らないとか…。


そんな条件・状態を乗り越えて余りあるほど素晴らしい作品です。
マキノ作品などと同様、他の見知らぬ人々とスクリーンで共有することによって、面白さが一層増すとも思います。視聴覚だけでなく五感を全開にして享受して下さい。
私の紹介文は拙いものでしたが、西山洋市監督のトークは勿論もっと拡がりと深さと愉しさを持ったものです。
みなさま、ぜひぜひ劇場にお越し下さい。

山中貞雄作品集〈全1巻〉

山中貞雄作品集〈全1巻〉