スローダンス

フジテレビ 21:00 オトコ1名 もう若くない


本日よりスタートの月9『スローダンス』。
主演=妻夫木聡が日本藝術大学(!)映画学部卒業で、
映画監督を志すもかなわず、現在は自動車教習場教員という設定。


劇中、妻夫木の同窓生で現在カラオケV制作中の西野亮広が、
他の仕事しながら自主制作を続けるなんて、
無理無理、ありえないという発言をしていましたが、
これは聞き捨てなりません。問題点は別にあるはずです。


ここで転形期を迎えていると先述した近年の自主映画の変動を記します。
①DVによる撮影、パソコンによる編集により、金銭・機材面ともに負担が軽減された。
②海外映画祭(主に短編部門)への出品・受賞の機会が増大した。
③フィクションにおけるVオリ(Vシネマ)、
ドキュメンタリーにおける企業PR映画市場が縮小し、
修行の場としての受け皿が激減した。


つまり①により製作本数は増加し、それに伴い技術も向上して、
②のように海外で評価されたりするが、国内では③の事情により、
〈映画〉でメシを食う生活を送るのは難しい、
どころか作品発表の場にも窮していて、
一般の認知を得られないということです。


ちなみに昨日の伊刀監督『笑う胃袋』は、
みちのく国際ミステリー映画祭オフシアター部門グランプリ、
Asian International Film Festival(トロント)でグランプリ、
釜山アジア短篇映画祭など多数の映画祭で入選と堂々たるものです。


しかしそれでも商業映画デビューは出来ず、
かと言って新人を対象としたコンペに出品するのは、
もうキャリア組なんだからと周囲に止められるという状況で、
「私はどうしたらいいのでしょう?」と
瀬々敬久監督に人生相談したという次第です。


ちなみにそれに対する瀬々監督の御回答は、
「もっと泥水すすれ!」という、獅子プロ出身ならではの、
簡潔にして要を得たものでした。


伊刀監督は、おそらく8ミリで映画を撮り始めた最後の世代(35歳)、
という自己紹介をされていました。
私も同世代なので言わせて戴きますが、
おそらくここが精神論が通用する最後の世代でもあります。
伊刀監督には是が非でも頑張って戴くとして、それ以降の世代、
現在20代以下の若い世代はどうしたらいいのでしょう?


この現在の自主映画界の困った状況に対するひとつの回答が、
今年度から開講した東京芸術大学院・映像研究科です。
更なるレヴェルアップを図るという訳です。
映画関係における国内初の教育機関の設立という意義は認めますが、
状況に対する戦略としてはいかがなもんでしょう。


スローダンス』で「映画業界に就けるのはひと握り」という
表現がありましたが、もっと具体的に行きましょう。
(商業)映画監督となり、しかもコンスタントに作品を発表していく
=映画でメシを食うということなら、
プロ野球やサッカー選手になるより難易度は遙かに高いです。
1チーム約30人(?)×チーム数≒400人は絶対にいない。
セリエAメジャーリーグに行くレヴェル=十数名の狭き門だと思われます。
つまり東芸映はメジャーリーガー養成機構=陸軍中野学校みたいなもんです。
しかし映画監督の選手生命は異様に長い。
寿命直前まで現役でいることも可能なのでいずれ溢れます。


エリート養成という先鋭化ではなく受け皿を増やすことは出来ないのか?
そのためにも認知・評価の場として上映会!
というのはあまりに私たちに都合の良い結論でしょうか。
現実的に黒字になることが稀な上映会で生活していくのは無理な話です。


もうひとつ発想の転換をするなら、
職業としてではなく趣味としての映画監督を選択する道があります。
他に職業を持ちながら小説を書いている人は沢山います。
将棋の世界ではアマチュアがプロを負かすことが最早珍しくありません。


すでに映画でこの方法を実践している方も存在します。
プロ志向ではないので技術レヴェルが絶対ではない、
別の価値観による座標軸がそこにはあります。
私はそうした作品を<自主映画>と呼んでいます。


再び『スローダンス』です。
勤務中に教習場通ったり、その教習車で成田空港に向かわせたりする、
柔軟性と機動力に溢れる深津絵里嬢であれば、
間違いなく自主映画監督になれることを私が保障いたします。


しかし妻夫木の兄であるエリート社員=藤木直人が、
退職届を出したのがとても気にかかります。
まっさか「映画監督になる」とか言い出さなきゃいいんですが。
心配で心配でたまりません。
たぶん来週も見ちゃうんだろうな。